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fuf学習会報告 [組合活動]

「ファンド規制と労働組合」野中郁江+全国労働組合総連合会 新日本出版社(2013)
                         
 物を生産して利益を得るという時代から、金融取引によって利益を得るという資本主義の変化を背景にしてブルシットジョブ現象が発生し、ジェネレーション・レフトや寝そべり族という形で抵抗が生じているというのが、これまでの学習会の流れであったが、ここまでで触れられていない問題がある。
それは、上記のような現代資本主義の変化が、労働組合運動に対し、どのような問題をもたらしているのかということである。この問題については、労働組合はこのような変化をどのように捉えるのか、また、そこにおいて労働組合の在り方について検討するということは、重要な問題ではある。ただ、このような問題を考えるにあたっては、理論的な検討も大切ではあるが、抽象的過ぎて分かりにくくなる可能性があるため、実践的・実務的な問題を通した方がより考えやすいだろう。
そのようなわけで、今回については、金融化した資本主義が労働組合法上、あるいは労働組合運動にとってどのような問題を生じさせるのかということについて、「ファンド規制と労働組合」を取り上げて、学習していくこととする。
内容について簡単に説明すると、会社を支配するファンドに対して労働組合はどのように対抗したのかということを扱っている。対抗するための組合の方針は「持続可能で長期安定型のまともな経営」を求める、会計上の不正を追及する、ファンドに対して法的規制を求めるというものである。
これらの方針については、モノづくりを中心とした資本主義への回帰、公正な金融取引や金融活動という考え方が見られる。そこに全面的に依拠することは、寝そべり族やジェネレーションレフトが提起している問題意識を汲み取ることは出来ず、労働組合運動の可能性そのものを狭めてしまうことになってしまい、その意味では既存の労働運動の思想的な限界を表していることは否定できないと考えられる。

序文 グローバル資本主義化のファンド
 ファンドとは投資会社等がジェエラル・パートナー(無限責任)他の投資家から出資を受け入れる形で組成される。ファンドには伝統的ファンドと代替的投資的ファンドが存在する。前者が株や債券などを投資対象にする一方で、後者は金融派生商品、不動産、買収ファンドなどを投資対象としている。
近年、ヘッジファンド、プライベートエクイティファンド(PEファンド)といった代替投資ファンドが成長している。ヘッジファンドは株や外国為替の短期売買によるによるキャピタルゲインを狙うものであり、PEファンドとは企業そのものの売買を行うという特徴を持っている。伝統的ファンドは株主として経営者に対して要請することに留まる一方で、PEファンドは新たな経営者の派遣等を通じて、事業再構築など企業経営に直接関与する、「ハンズオン型」投資を通じて短期的に株価でみた企業価値を高め、企業の売却時のキャピタルゲインを最大化する特徴を持っている。人格的には「支配株主」と「経営者」の分離を維持しながら、実質的・機能的には支配株主と経営者の再統合を行っていると言える。
PEファンドによる企業買収は、事業の再構築を通じて企業価値を高めるという評価をされる一方で、買収先企業の内部留保といった形成資産の略奪が行われ、そこで働く労働者の権利や生活が破壊されるという事態が頻発しており、このような略奪的な形で利益を上げることがPEファンドの特性であるが、それに対する規制が必要である。また、「伝統的ファンド」の投資が「代替投資ファンド」の投機的・略奪的行動を支える関係があり、PEファンドのみならずファンド総体の投機的・略奪的行動の規制が不可欠である。

第1章会社がファンドに支配された
Ⅰ アデランス‐スティールパートナーズによる買収と支配
外資ファンドのスティール・パートナーズ(SP)によるアデランスの買収と支配。SPが大株主となり、経営陣を送り込み、SPがアデランスの実質的支配者となり、経営改革が行われたものの、その実態は資産の整理による現金化と株主への還元、人員削減を意味するものであった。
 2009年6月末に経営陣が新しくなり経営改革が出されたのを受けて、2009年10月に全労連全国一般東京地方本部アデランスグループ支部が結成された。ファンドの支配に対決し「まともな経営を求め」て労働組合は闘っている。支配株主であるSPは交渉を求めるべき相手であるが、所在も責任体制も把握できない正体不明者であり、団交権が及ばず情報が一切開示されていない。

Ⅱ カイジョー事件-再生ファンドは会社を救ったか
 NECの関連企業の一つであり、魚群探知機や半導体製造装置を主力とする(株)カイジョーは2005年2月に半導体製造装置部門が半導体不況による影響で損失を計上し、経営困難な状況に陥り、NECのリストラの対象となった。
 メインバンクから資金供給元兼企業再生の請負人としてフェニックス・キャピタルというファンドが紹介され、カイジョーはフェニックスに対して第三者割当増資を行った。フェニックスはそれを引き受けてカイジョーの株式86.1パーセントを取得し、カイジョーの親会社となった。
 2005年の10月にカイジョーは140名の希望退職を募集するが、希望退職のための面談で退職や出向を迫り、希望退職のための面談を強要するなどのことを行っていた。2006年には会社分割した子会社を売却して100名を転籍させた。全日本金属情報機器労働組合(JMIU)カイジョー支部は会社と争議を行っていたが、フェニックスは団体交渉の求めにも応じず、親会社としての責任を果たさなかった。
 フェニックスは2012年1月にカイジョー株を澁谷工業(株)に売却し21.1億の損失を出して撤退している。カイジョーの有していた有利子負債は20億弱まで減少しており、フェニックスの介入は、銀行がカイジョーに対して有していた資産を回収することが主たる目的だったのではないかと考えられる。
 闘いの課題として、ファンドの規制と情報開示を徹底させて、介入したファンドに健全な経営参画を行わせること、売却・譲渡先企業との譲渡契約内容の開示が必要であり、少なくとも「不当労働行為や組合排除」等は行わない旨と違反した場合の担保も含めた協定書等をかわす必要がある。企業が健全に経営を継続し、被支配企業の労働組合が適時チェックできる枠組みを作るために、労働組合として大きな運動が求められる。ファンドに対する労働者の「情報請求権」を法規制として確立する必要がある。また、合意協力型の労使関係を追求し「人と技術を大切にする企業」としての企業価値向上を目指し、企業の中長期的の政策的提起を行っていくことが求められる。

Ⅲ ユニオン光学事件-「違法」ファンドによる企業荒らし
 ユニオン光学の支配株主となったファンドが証券取引等監視委員会から「偽計」容疑で告発され、ファンドの代表者は逮捕されたという事件。
 ファンドはGトレーディングスというファンドで、ユニオンHDという持ち株会社を設立し、ユニオン光学はユニオンHDの子会社となった。ユニオンHDはその後、企業買収を繰り返して子会社を増やして売り上げを上げたものの、同時に2006年から2009年の間だけでも261億円を超える特別損失も出し、2009年にユニオンHDの社長が実際には約2億5千万円しか振り込まれていないにもかかわらず、約4億6千万円の増資を行ったかのように見せかけた、「偽計」で逮捕・有罪となった。
JMIUはユニオン光学がユニオンHDの子会社にされる際、ユニオンHDと団体交渉権を確立し労使協定を確立させた。しかし、団体交渉の場では特別損失についての説明を行わないなどユニオンHDは不誠実交渉を繰り返すも、組合側は不当労働行為の救済申し立てを行わなかった。最終的に会社は破産したものの、組合員が破産会社の資産を買い取り、ユニオン光学を再建させた。
ファンドによる支配と闘う上での課題、方向性として、①持ち株会社に対して、子会社の団体交渉権を確立し説明責任を義務付けること、②ファンド経営者は事業に責任を持つ「組合嫌い経営者」と異なり、リストラ「合理化」、資産売却、事業売却などを「聖域なし」で実行する。労働組合運動は次のようなことを重視すべきである。正体不明のファンドの実態を解明し、ユニオンHDの社長のような経営者の法的責任を追及できる法的枠組みを検討、悪徳経営者の排除のために職場では組合と管理職を中心に「不公正なファイナンスを止めさせ、モノづくり経営を再生させる」という要求で共闘しそれを社会的世論にしていく、有価証券報告書に加えて「適時情報開示義務」「親会社状況報告書」「東証上場規制」などを活用し闘える武器を持つこと、「不公正ファイナンス」を行うような経営者は労働者・組合の利益と必ず敵対するため友好的に見えても幻想を抱いてはいけない。

Ⅳ ファンド支配と不公正ファイナンス‐第三者割当増資をめぐる問題
 日本においてはファンドが企業の支配権を握る場合、第三者割当増資を引き受けて経営を掌握するパターンが多い。第三者割当増資というのは、特定の第三者に募集株式を割り当てることによって増資するという株式会社の資金調達の一つである。このような資金調達(ファイナンス)は既存株式の権利が著しく侵害されることがあり、それらを「不公正ファイナンス」と呼ぶ。
日本は英米に比べて既存株主の新株引受権の保護が徹底されておらず、第三者割当増資による企業支配がやりやすいため、ファンドのターゲットにされやすく、不公正ファイナンスの温床になっている。

第2章 ファンドの支配に立ち向かう昭和ゴム労組
 昭和ゴムは明治製菓のグループ企業であったが、1992年に経営危機に陥り2000年に明治製菓がファンドに保有株式を売却したことで、それ以降はファンドに支配されることとなった。複数のファンドの支配下に置かれた後、現在はAPFの支配下に置かれている。それまでの証券市場から差益を収奪することを目的とした超短期利益追求型ファンドの下において労使関係は円満であったが、APFは不当労働行為や組合攻撃を行っている。
 昭和ゴム労組は、1992年の経営危機以来「会社を倒産させない闘い」として企業再建闘争を開始した。2006年から複数のファンドが昭和ゴムに介入し、本業とは全く関係のない事業を打ち出して、その事業資金を昭和ゴムから持ち出すという形で、資金の流出が起こった。昭和ゴム労組は資金流出について団体交渉を行う中で、投資委員会を設立し組合の代表がそこに入るなどの一定の成果を勝ち取ってきた。
 AFPはそれまでのファンドとは違い過半数の役員を送り込んで経営に直接関与してきた。AFPは短期間で増資の二倍額の資金をAFPのグループ企業に持ち出し、投資内容の説明や返還を求める組合に対しては、労使協定の破棄、組合役員処分等の不当労働行為で報復してきた。
昭和ゴムは2009年6月29日の株主総会で、昭和ホールディングスへの社名変更と持ち株会社への移行が決議され、同年10月1日に会社分割が行われた。それまでの昭和ゴム株式会社は昭和HDの子会社となった。親会社である昭和HDに資産が全て移行する一方、従業員は子会社に転籍することとなった。
会社が分割されることで、親会社である昭和HDは団体交渉を拒否し、都労委も団交応諾義務の確認は却下している。また、会社分割された際、労働者の労働条件が継承されることを定めた「労働契約承継法」があるものの、子会社への転籍は労働組合や労働者の合意を必要とせず、拒否すれば解雇されるというという問題が存在する。
昭和ゴム労組はAPFに対して、団体交渉や労働委員会の申し立てという闘い以外にも、金融庁や公認会計士協会に対してAPFの金融商品取引法違反、架空増資や有価証券の虚偽記載に関する調査や監査の要請行動、株主代表訴訟という方法を使って闘ってきた

第3章 ファンドとは何か
 ファンドとは金融商品取引法上では「他者から金銭などの出資・拠出を受け、その財産を用いて事業・投資を行い、当該事業・投資から生じる収益を出資者に分配する仕組み」としての集団投資スキームを意味する。
 集団投資スキーム型ファンドには様々な種類があるが、株や債券などを投資対象としてきた伝統的ファンド(機関投資家)が1980年代以降、投資分散化の対象として拡大してきた。それらは伝統的な投資対象に代替するものとして「代替投資ファンド」と呼ばれてきた。1章、2章で取り上げたファンドは、プライベートエクイティファンド(PEファンド)という種類のものである。
 PEファンドはその性質上、会社の経営に介入することになるが、その際の労働者保護の規制は不十分である。2004年3月にアクティブ・インベスト・パートナーズ(AIP)設立のファンドが東急電鉄から東急観光を買収したのち、買収後の経営陣はそれまでの労働協約や労働慣行を無視した合理化を実施し、AIP社が団交に応じないため、東急観光労組が労働委員会の救済を行った。厚労省はこれを受けて2005年に「投資ファンドにより買収された企業の労使関係に関する研究会」を組織し対応策を検討したが、法制化は見送られ、ファンドの使用者性は1995年の朝日放送事件の最高裁判決に基づいて「現実的かつ具体的に支配決定しているか」を個別に判断すべきとした。結果、日本の法制度はPEファンドの「略奪的」投資による企業の成長基盤の破壊、労働者の無権利状態が「規制上の空白」として放置されるままになってきた。
 会社の経営権を掌握したファンドに対して、労働組合はファンドの責任追及などを通じて対抗する必要がある。その手段として団体交渉があるが、会社の経営権を掌握したファンドが労組法7条の「使用者」に当たるかどうかについて、つまり団交応諾義務があるかどうかについては、個々具体的に判断するというのが現状である。
労組法7条の使用者概念の判断基準は「支配力説」と「労働契約基本説」が対立している状態である。支配力説は「労働者の人事や労働条件等の労働関係上の処理液に対して影響力ないし支配力を及ぼし得る地位にあるもの」で労働契約基本説は「労働契約関係ないしそれに近似ないし隣接した関係を基盤として成立する団体的労使関係の一方当事者を意味する」として労働契約関係の存否を中心に限定的に解する考え方で、具体的判断基準として「当該労働者の労働条件について現実且つ具体的に支配・決定することができる地位」を要件とする。前者に比べて後者の方が基準が厳格になっており、中労委・裁判所は労働契約基本説の立場に立っており、ファンドの使用者性は認められにくい。
 ファンドに対する責任追及として団体交渉以外にも、①法人格否認の法理による親会社・ファンドの責任追及、②会社法429条1項に基づく取締役に対する損害賠償請求、➂株主代表訴訟に基づく取締役に対する損害賠償責任追及が挙げられる。
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9月学習会  ファンド規制と労働組合 [イベントなど告知]

まだまだ暑い日が続く毎日、なにはともあれ暑さをしのいで生き延びていくしかない持たざるものち。
働きすぎないことだけを念頭に、休むことを、ゆっくりする時間を、リラックスして、仲間とともにいる時間を大事にしていきましょう。

そんななか学習会は、本当に有意義な時間です。

オンラインで気軽に参加、耳を傾けながら仲間の声を聞くことができます。もちろん、顔もね。

今回は、「ファンド規制と労働組合」ちょっと耳慣れない言葉かもしれませんが、今の労働組合のあるべき姿を見出すためにこのような共同研究がなされていることを知ることができます。

 ファンドによって支配された企業で何が起きているのかーーーようやくその実態が、労働者の支店から明らかになった。本書の第1の特色は、この点にある。・・・・・


9月17日(土)午後1時よりオンラインにて





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